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横浜地方裁判所 平成7年(ヲ)3104号 決定

申立人 クリエイトファイナンス株式会社

上記代表者代表取締役 下里充二

上記代理人弁護士 今井和男

相手方 佐藤喜光

佐藤三枝

上記両名代理人弁護士 清井礼司

主文

1  相手方らは、この決定の送達の日から一四日以内に、別紙物件目録≪省略≫1記載の建物(以下「本件建物」という。)を収去せよ。

2  執行官は、相手方らが本件建物を収去するまでの間、別紙物件目録2記載の各土地(以下「本件土地」という。)について、相手方らが本件土地上に建築した本件建物の収去を前項のとおり命じられていることを公示しなければならない。

理由

一  本件記録(本件抗告審記録、差戻前一審記録、横浜地方裁判所平成五年(ケ)第一八八八号事件及び同裁判所平成五年(ヲ)第三四八五号事件記録を含む。以下同じ。)によれば、以下の事実を一応認めることができる。

1  申立人クリエイトファイナンス株式会社(以下「申立会社」という。)は、平成元年一二月八日、株式会社大明建興に対し金四億一〇〇〇万円、株式会社福山地所に対し金一億六〇〇〇万円を貸し付け、右各貸金債権を担保するため木目田松雄所有の本件土地に極度額をそれぞれ金五億七〇〇〇万円(株式会社大明建興分)及び金二億円(株式会社福山地所分)とする順位いずれも一番の根抵当権を設定する旨の契約を締結し、同日、その登記を経由し、その後、平成二年一二月一三日、更に株式会社大明建興に対し金一億六〇〇〇万円、株式会社福山地所に対し金四〇〇〇万円を貸し付けた。

2  木目田松雄は、上記根抵当権設定に際し、上記両社と連名の下に申立会社に対し、同社の書面による承諾なくして本件土地上に建物を建築したりしないことを誓約する旨記録された念書を提出した。

3  株式会社福山地所は、平成三年八月三〇日、株式会社大明建興は、平成五年八月一二日、それぞれ第二回目の手形不渡りを出し、銀行取引停止処分を受けたことから、同年九月一〇日ころ、申立会社の担当者が木目田松雄に対し、本件土地を任意売却して前記貸金の弁済に充てないと競売の申立てをせざるを得ない旨伝えた。

4  木目田松雄は、同月六日本件建物の敷地部分(別紙物件目録2の(3)及び(5)記載の各土地、以下「本件敷地部分」という。)を旧地番三一七六番一及び二から分筆した上、同人及び相手方らは、同月一六日、相模原市農業委員会に対し本件敷地部分について相手方らを賃借人として賃借権を設定する旨の届出をした。

なお、木目田松雄及び相手方らの間では、平成五年一一月一日付けで本件敷地部分について、賃料は年額一二万円で賃料全額一括支払済み、期間は同日から五年間とし、賃借権を第三者に譲渡または転貸することができる旨の特約が付され、敷金欄は空白のまま記載されていない土地賃貸借契約書が作成されており、これを登記原因証書として同年一二月二日付けで賃借権設定仮登記が経由されている。また、同年一一月一日付けで敷金五〇〇〇万円の預託を受けた旨の木目田松雄名義の預り証、五年分の賃料合計金六〇万円の支払を受けた旨の同人名義の領収書が存在する。

5  相手方らは、同年一〇月二五日付けで相模原市建築主事に対し、建築確認申請書を提出し、同年一一月五日付けで建築確認を得、そのころ、有限会社ダイトーホームをして代金約一五〇〇万円で建築工事を請け負わせた。

6  申立会社は、担当者が同年一一月三〇日本件土地を視察した際、本件建物が建築中であることを知り、木目田松雄に抗議したが、同人の聞き入れるところとはならなかった。

なお、このころの工事の進行状況は、屋根が葺かれているものの、建物の外周は、下地が露出していて外壁材が未だ取り付けられておらず、足場が組まれている状態であった。

7  申立会社は、同年一二月一〇日、競売の申立てと同時に執行裁判所に対し、相手方らに対して本件土地上における建築工事の中止・禁止等を求める売却のための保全処分の申立てをしたところ、同裁判所は、同月二〇日、上記申立てを認容して、相手方らに対し、①本件土地上において行っている建物の建築工事を全て中止せよ、②本件土地上に建物を建築してはならない、③執行官は本件土地につき相手方らが上記命令を受けていることを公示しなければならない、という内容の保全処分を発令したが、これに対して、相手方らからは何らの不服申立てもされなかった。

上記保全処分の発令時においては、本件建物はほぼ完成しており、同月二七日には、登記原因及びその日付が同月一七日新築、所有者が相手方佐藤喜光(持分三分の二)及び同佐藤三枝(持分三分の一)として、本件建物につき表示の登記がされた。

また、同月二四日、上記公示の執行がされたときには、本件建物内に居住してはおらず、プロパンガスのボンベがガス配管に接続されていないなど一部工事が未了の状態であったが、翌平成六年一月には、相手方らは、その家族とともに本件建物に入居した。

更に、同月二四日に執行官による点検執行がされたが、上記公示の執行時に掲示された公示書が撤去されており、本件建物の玄関内に置かれてあった。

8  なお、本件敷地部分は、矩形をした本件土地のうち東南側の約四分の一を占めており、その東側において公道に面している。本件建物は、本件敷地部分のうち、西側の奥まった位置に建てられており、本件土地のほぼ中央部分に位置している。また、本件建物には、相手方ら及びその子ら二名が居住している。

二  以上を前提として、本件保全処分の申立ての適否について判断する。

1  相手方らが保全処分の相手方となりうるか。

前記のような賃貸借契約締結の時期、態様、本件建物建築の経緯及び本件土地に占める位置並びに、相手方らが建物を所有し、これに居住することで本件土地そのものを占有することに執着しているとみられること等を総合的に考慮すれば、相手方らの主張する賃借権は、通常の用益のみを目的としたものということはできず、木目田松雄の意思に基づき、申立会社の担保権実行による競売を妨害する意図の下に法律関係の外形を作出しているものと推認すべきである。したがって、相手方らは、本件土地をその所有者の意思に基づき占有している占有補助者に当たるものであり、売却のための保全処分の相手方となり得る。

2  相手方らが本件土地の価額を著しく減少する行為をしているか。

相手方らは、前記のとおり、競売を妨害する意図の下に本件敷地部分についての賃貸借契約の外形を作出し、本件土地の上に建物を建築してこれを占有しているところ、本件建物が存在することにより、競売に参加して買受け申込みをしようとする者は、本件土地を買い受けた場合、本件建物を排除するために多大な費用と労力を費やすことを余儀なくされることを危惧し、買受け申出を控える可能性があり、その結果、売却価格が著しく低下するおそれがあるものと考えられる。現に、本件競売における評価人の評価によると、本件土地については、本件敷地部分に本件建物が存在することにより、本件敷地部分の更地価格の三割にあたる一一、五六一、七〇〇円の減価をした上で評価されているもので、相手方らの行為は、本件土地の価額減少行為に当たるということができる。

3  本件保全処分の相当性について

本件のような執行妨害の意図をもって、価額の減少行為がなされた場合、執行裁判所は、法五五条一項により保全の目的の範囲で、価額の減少行為の態様に照らし、保全処分の内容を自由に決することができると解されるところ、本件のような場合においては、本件建物が存在することで本件敷地の価額が減少することになったのであるから、本件建物を収去して更地の状態に戻すことが最も抜本的解決であり、かつ、この方法を法も認めているところと解される。

ところで、本件建物には、前記のとおり、相手方ら及びその子ら二名が居住しているところ、相手方らは、本件建物の収去を命じられると、相手方らに酷な事態を迎えることとなると主張する。しかしながら、相手方らは、極度額七億七〇〇〇万円にも及ぶ根抵当権が設定されている本件土地上に、担保権の実行によりいつ建物を収去しなければならない事態が出現するか分からないにもかかわらず、本件建物を建築し、かつ、その建築途中において、建築中止、建築禁止等を内容とする保全処分が平成五年一二月二〇日発令され、これが同月二四日、本件土地上に公示されたにもかかわらず、あえて、一部の工事を完了のうえ、平成六年一月に本件建物に入居したものである。したがって、相手方らが本件建物の収去を命ぜられ、その住居を失うことになったとしても、かかる不利益は、相手方らにおいて容易に予想することができ、避けることができるものであったから、保全処分の結果相手方らに酷な結果となるものということはできず、他方、本件建物が収去されることにより、前記2のような著しい価格減少の事態は消滅することとなるから、本件のような保全処分も保全の手段として相当であるといわなければならない。

三  よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川波利明 裁判官 松村徹 惣脇美奈子)

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